大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(行ツ)87号 判決 1982年12月21日

上告人

株式会社

横田商店

右代表者代表清算人

横田浅吉

右訴訟代理人

堀切真一郎

渡辺健寿

被上告人

郡山税務署長

中嶋忠一

右指定代理人

亀田哲

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人堀切真一郎、同渡辺健寿の上告理由第一について

行政事件訴訟法一九条一項によつて関連請求に係る訴えが追加的に併合される場合においても、追加される訴えがそれ自体不服申立ての前置又は出訴期間の遵守等の訴訟要件を具備しなければならないことは、新訴の提起の場合と同様であるから、原審が本件訴えを不適法として却下するにつき、不服申立ての手続を経ていないことを理由としたことは、正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、右の規定についてこれと異なる解釈を前提として原判決を論難するものであつて、採用することができない。

同第二について

青色申告書提出承認の取消処分と更正処分とは、前者の納税者の地位及び納税申告の方法に関するものであるのに対し、後者は課税処分として納税義務及び税額を確定するものであつて、それぞれ目的及び効果を異にする別個の処分であり、その手続も截然と区別されたものであるから、青色申告書提出承認の取消処分と同時に又はこれに引き続いて更正処分がされた場合に、たまたま右二つの処分の基礎とされた事実関係の全部又は一部が共通であつて、これに対する納税者の不服の事由も同一であるとみられるようなときでも、後者の処分に対し適法に不服申立てを経たからといつて、それだけでは当然に、前者の処分に対する不服申立てを経たのと実質的に同視しうるものとして前者の処分に対する不服申立ての前置を不要と解することはできず、また、同処分に対する不服申立てを経ないことにつき国税通則法(昭和四五年法律第八号による改正前のもの)八七条一項四号にいう正当な理由があると解することも相当でない。

これと同旨の見解に立つて本件青色申告書提出承認取消処分の取消しの訴えを不適法とした原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(木戸口久治 横井大三 伊藤正己 安岡満彦)

上告代理人堀切真一郎、同渡辺健寿の上告理由

第一 原判決には、上告人の主張に対し判断を尽くさず理由不備の違法がある。

即ち上告人は、原審に於いて行政事件訴訟法一九条一項により、本件青申取消処分の取消を求める訴の追加的変更は適法である旨主張している。

右行政事件訴訟法一九条は原告に対し取消訴訟提起後に口頭弁論終結時迄に関連請求の関係にある請求を追加併合して、一挙に問題を解決すべくそれを審理の対象とすることを認め、それによつて審理の重複を省きかつ判決の矛盾抵触を避けようとする趣旨で規定されたものであるから右規定の趣旨に従つて特に関連請求にかゝる場合は単に新たな訴を提起した場合とその訴訟要件を異にすると解すべきである。

従つて原審としては行政事件訴訟法一九条一項にいう関連請求に係る訴えの追加的変更の場合に必要とされる要件を明確に認定して本件青申取消処分の取消を求める訴の追加的変更が許されるか否かを明らかにすべきであるところ、その理由中で「昭和四九年行(ウ)第一五号事件として立件されたことは記録上明らかである」と認定するのみで、行政事件訴訟法一九条一項の規定による変更の要件につき何らの判断を示していない。

右の点で原判決は理由の不備であり破棄されるべきである。

第二 原判決は行政事件訴訟法八条二項及び一四条の解釈を誤つた違法がある。

原判決は国税通則法八七条一項が不服申立ての手続を経た後でなければ当然処分の取消を求める訴えを提起できないことを定めていると認定した上、青申取消処分と更正処分とは全く別個の行政処分であるから、それぞれに不服申立ての手続を経る必要がありそれを経ていない本件訴は不適法である旨判示している。

しかしながら国税通則法八七条一項の規定の趣旨は原判決判示の通りとしても、行政事件訴訟法八条二項三号により正当な理由があるときは不服申立を経ないで出訴できるのであり、且一定の範囲では出訴期間の制限も緩和されると解すべきである。その正当な理由と緩和の要件は本件青申取消処分と本件更正処分の関連性及び之を不服とする其体的な係争の実情によつて個別に判断され、単に別個の行政処分であるという形式的な区分で一律に解決されるべきものではない。

まず、本件青申取消処分がその理由の付記を欠く瑕疵があり、本来取消されるべきであることは、つとに最高裁判所の判例とするところであり、被上告人もまたこれを認めている(最高裁昭四九、四、二五判決、民集二八巻三号四〇五〇頁等)。

(一) 本件青申取消処分と本件更正処分等との関連性

そこで本件青申取消処分と更正処分等との関連性について検討してみると両処分は先行、後行の連鎖的関連性があり処分の理由となる事実を共通し、その処分の効力を争う攻撃防禦の方法を共通にする等極めて密接な関係にある。即ち本件青申取消処分がなされ、そのうえで青色申告でないことを前提として、本件更正処分等がなされたものであり、先行する青申取消処分が取消されれば後行する更正処分等は直ちにその根拠を失い取消される運命にある。

又本件青申取消処分と本件更正処分等とは、上告人の別口利益の隠ぺいという一個の事実を理由としており、その処分の効力を争うために右事実の存否を争うことになる。

ところが被上告人は本件青申取消処分と本件更正処分等とが形式的に別個の処分であることを殊更に強調し、青申取消処分自体について不服申立の前置を欠き、出訴期間を徒過しているからその取消を求める本件訴は不適法であると主張し、原判決は安易にこれを認めたものである。

然し乍ら、右の主張は上告人が本件更正処分についてのみ争い、たまたまそれに先行する青申取消処分を当初から争わなかつたことにより、本件青申取消処分の確定をいうものであつて、瑕疵ある行政処分からの救済の途を不当に閉ざすものである。

行政処分の確定という考え方は、行政上の法律関係安定の要請に由来するものであるが、他方、行政処分に瑕疵があればそれによつて不利益を蒙つている国民の権利救済の為にその違法を争う機会を充分に与える必要がある。その為には両者の要請の権衡上形式的な訴訟要件のみに捉われることなく合理的な範囲でその要件を緩和すべきである。

本件についてみれば、上告人が更正処分等を争つていることにより、上告人と被上告人との間の租税法律関係は不確定の状態にあるから、前述のように右更正処分と密接な関係にある本件青申取消処分の効力を争うことによつて、両者間の租税法律関係の安定を何ら害するものではない。

又他の納税者との関係で考えてみても、本件の場合は更正処分等について何ら異議を止めることなく、租税法律関係が確定してしまつた納税者が不服申立を経由せず又出訴期間を徒過した後に突如として青申取消処分の瑕疵を理由に処分の効力を争う場合とは事情を異にするものである。その意味でも法的安定性を害することにはならない。

更に付言すれば本件青申取消処分の理由は「法人税法一二七条一項三号に掲げる事実に該当すること」というのであるが、右の記載からは処分の理由となる具体的事実が何ら明確にされず具体的な理由を了知したうえで処分に対する不服申立の手続をとることは不可能である。

最高裁判所の裁判例において右のような青申取消処分につき法定の理由附記を欠くから取消されるべきであると判断しているのも正にこの点に着目したからにほかならない。

従つて他の理由により青申取消処分の取消を求める場合と異なり、本件の場合には上告人が法定の期間内に青申取消処分の取消を求める不服申立及び訴訟の手続をとらなかつたことにつき一方的に上告人にその責を帰することは著しく不公正というべきである。上告人が本件青申取消処分の瑕疵を主張しようにも、その対象とすべき事実が青申取消処分自体からは明らかにならない状態であつたからである。かゝる場合「原告としてはよろしく右青申取消処分の理由不備を理由として、国税通則法に基づく異議申立審査請求をそれぞれ法定期間内になすべきであるのに原告は何らこれらの手続を経由することなく漫然時日を経過した」(昭和五一年六月四日付被告準備書面第二、前段)とするのは処分庁である被上告人の責任を一納税者に過ぎない上告人に転嫁するもので著しく正義に反するものである。

(二) 両処分の実体的違法の共通性

本件青申取消処分には、理由不備に止まらず実体的にも違法事由があるから取消されるべきである。

即ち本件青申取消処分の理由とするところは「法人税法一二七条一項三号に掲げる事実に該当すること」というのであり、それは帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺい又は仮装して記載する事実を指している。

右隠ぺい又は仮装の記載とは具体的に何の隠ぺい仮装を指すのか明らかではないが結局本件更正処分等の理由となる隠ぺい仮装と同一の事実を指すものと解せられる。

しかし、更正処分等の取消を求めて主張した通り右隠ぺい仮装の事実はないから本件青申取消処分は実体的に理由を欠くもので取消されるべきである。

上告人は、更正処分の取消を求めて当初から右隠ぺい仮装の事実が存在しないことを主張して来たのであるから、少なくとも右の実体的違法を攻撃する限りにおいては、本件青申取消処分の取消を求める請求と本件更正処分等の取消を求める請求とは同一の請求を含むものと解すべきであり本件更正処分等の取消を求める訴において不服申立前置及び出訴期間の要件が充たされていれば本件青申取消処分の取消を求める訴についても右の要件を充足すると解すべきである。(最高裁昭三一、六、五判決民集一〇巻六号六五六頁参照)

従つて少なくとも右実体的違法を理由とする限りで本件青申取消処分の取消を求める訴の追加的変更は適法であり、これを不適法として却下した原判決は失当である。

右の次第で原判決は行政事件訴訟法八条二項及び一四条の解釈を誤つたものであり右法令違背は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから直ちに破棄されるべきである。

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